採用稟議書|通らないのは、比べる材料が無いから
人を1人採るには、たいてい決裁が要ります。その決裁を求める紙が採用稟議書です。
差し戻される稟議書には共通点があります。「人が足りない」しか書いていないことです。読む側は、足りないことは分かっても、何人がいつまでにいくらで必要かが分かりません。判断する材料が無いので、決められません。
この記事では、採用稟議書を、入れる項目・金額の出し方・通らないときに足りないもの・承認後の管理までまとめます。
この記事の内容(11項目)
採用稟議書に入れる項目
読む側が判断できる形にします。
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| 採用の区分 | 新卒か中途か、正社員かパートか |
| 人数 | 何人。1人ずつ分けるか、まとめるか |
| 配属と担当する業務 | どこで何をしてもらうか |
| 必要な時期 | いつまでに入社してほしいか |
| 理由 | 増員か、欠員の補充か |
| 費用の見込み | 採用にかかる費用と、人件費 |
| 採らなかった場合どうなるか | 残業、外注、納期、断る仕事 |
ポイントはここです。最後の1つが、いちばん効きます。採らない選択肢と比べられて、はじめて判断になります。
「人が足りない」だけだと、我慢すればよいのではないか、という話になります。我慢した場合に何が起きるかを書けば、比べられます。
人数と時期は、採用計画から引きます。計画の立て方は採用計画の立て方にまとめてあります。
採用稟議書の費用は2つに分けて書く
費用を1つの数字にまとめると、比べられなくなります。
| 分け方 | 中身 | いつ出ていくか |
|---|---|---|
| 採用にかかる費用 | 求人広告費、紹介手数料、適性検査、交通費 | 採用の期間だけ |
| 人件費 | 給与、賞与、社会保険料、教育の費用 | 入社後ずっと |
1つ目は1回きり、2つ目は続く費用です。判断する側にとっては、2つ目のほうが重い数字になります。
そのため、人件費は年額で書きます。月給だけ書くと、社会保険料や賞与が抜けて実際より小さく見えます。
紹介会社を使う場合は、手数料の率も書きます。想定年収の何%か。金額だけ書くより、あとで実績と比べやすくなります。
手数料の見方は人材紹介の手数料、予算の決め方は採用予算の決め方にまとめてあります。
採用稟議書が通らないときに足りないもの
差し戻される理由は、だいたい5つに収まります。
- 採らない場合の影響が書いていない。比べられない
- 人件費が月給だけ。年間でいくらかかるか分からない
- 時期が「なるべく早く」。いつまでかが決まらない
- 今いる人で回せないかの検討が無い。配置換えや外注の検討
- 前回の採用の結果が分からない。前も同じことを言っていた
4つ目がよく問われます。新しく採る前に、社内でできないかを見たか。見たうえで無理だと分かっているなら、その検討も1行書きます。
5つ目は、記録が残っていれば答えられます。前回いつ何人採って、いま何人残っているか。
早く辞めているなら、採用の前に別の手当てが要ります。早期離職の原因にまとめてあります。
採用稟議書は1人ずつか、まとめてか
どちらにも理由があります。
| 1人ずつ出す | まとめて出す | |
|---|---|---|
| 向く場面 | 欠員の補充。急ぎ | 年間の計画。新卒 |
| よいところ | 必要性が具体的 | 1回で済む |
| 困るところ | 回数が増える | 1人ずつの必要性が薄まる |
実務では、年間の計画としてまとめて承認を取り、実際に募集を始めるときに部署ごとに報告する形が多く使われています。
この形だと、計画の枠内なら稟議を回さずに動けます。枠を超えるときだけ、追加の稟議を出します。
そのため、稟議書に「年間計画の枠内か、枠外か」の欄を作ります。読む側が最初に見る情報になります。
採用稟議書の承認を誰が出すか
決裁の段階は、金額と人数で決まることが多くなります。
ただし、採用は金額だけでは決まりません。1人採ると、その後何年も人件費が続くためです。
| 見る観点 | 誰が判断するか |
|---|---|
| その部署で本当に要るか | 部署の長 |
| 会社全体の人員の枠に収まるか | 人事 |
| 費用が予算内か | 経理・管理部門 |
| 事業の方向と合っているか | 役員 |
4つの観点があるので、承認者も複数になります。ただし、全部を直列に回すと時間がかかります。
そのため、人事と経理は並行で見る形にすると早く終わります。順番に回す必要があるのは、部署の長と役員だけです。
止まるのは、承認者が不在のときです。代理を決めておかないと、採用の開始が数週間遅れます。
採用稟議書に前回の実績を添える
これを添えるだけで、通りやすさが変わります。
添えるのは3つです。
| 数字 | 何が分かるか |
|---|---|
| 前回の採用にかかった費用と期間 | 今回の見込みが妥当か |
| 採った人が今も在籍しているか | 採用が成果につながったか |
| 応募から入社までの人数の推移 | 何人応募が要るか |
3つ目があると、今回の募集の規模も説明できます。5人採るのに何人の応募が要るかが、過去の数字から出ます。
この数字は、歩留まりの記録から出ます。採用の歩留まりにまとめてあります。
費用の実績は採用の効果測定で見ている数字がそのまま使えます。
採用稟議書が承認されたあと
承認は始まりであって、終わりではありません。
承認された内容と、実際にやっていることがずれていきます。
- 人数が変わった。2人の予定が1人になった、逆に増えた
- 時期がずれた。4月入社が7月になった
- 費用が超えた。紹介会社を追加で使った
- 条件が変わった。想定より高い年収で出すことになった
どれも、どこまでなら報告だけで済み、どこからが再度の稟議かを決めておきます。決めていないと、その場の判断になります。
一般には、金額で線を引く形が使われています。「承認額の1割まで」といった形です。
そのうえで、承認された稟議の一覧を持ちます。いま何件の採用が動いていて、合計いくらの枠があるか。1枚で見られる形にします。
採用稟議書と採用申請書を分ける会社もある
2段階にしている会社があります。
| 採用稟議書 | 採用申請書 | |
|---|---|---|
| 目的 | 採ることの決裁 | 募集の開始を人事へ依頼 |
| 出す先 | 決裁者 | 人事・採用担当 |
| タイミング | 先 | あと |
| 書く内容 | 必要性・費用 | 求める人物像・条件・選考の進め方 |
分けると、決裁と実務が混ざりません。ただし、書類が2枚になります。
規模の小さい会社では、1枚にまとめて構いません。1枚の中に、決裁のための欄と、募集のための欄を並べる形です。
どちらにしても、募集を始めるには求める条件がはっきりしている必要があります。募集要項の書き方にまとめてあります。
採用稟議書を電子で回す
紙で回すと、誰の机で止まっているか分かりません。
電子にすると、止まっている場所は見えます。採用は時期が効くので、止まる日数がそのまま採れるかどうかに響きます。
そのうえで、入力の項目を減らします。決裁者が見るのは、人数・時期・費用・採らない場合の影響の4つです。
細かい経緯は添付にします。本文に長く書くと、読む側が結論にたどり着けません。
電子でも紙でも、決裁の記録は残します。誰が、いつ、何を承認したか。この3つは、あとで必ず参照されます。
移行のときは、承認までを同じ場所で完結させます。入力は電子で押印は紙、という形がいちばん止まります。
採用稟議書から採用の全体を見る
たまった稟議書は、それ自体が資料になります。
| 見る切り口 | 分かること |
|---|---|
| 部署ごとの件数 | どこで人が動いているか |
| 増員と補充の割合 | 会社が伸びているのか、人が抜けているのか |
| 承認から入社までの日数 | 次の計画を立てるときの目安 |
| 差し戻しの理由 | 様式や運用の直しどころ |
2つ目がいちばん大事な数字です。補充ばかりなら、採用より先に離職の理由を見る話になります。
3つ目は、現場に伝える目安になります。「稟議を出してから入社まで、ふだんは3か月です」と言えるだけで、早く動いてもらえます。
そのうえで、年に1回は様式そのものを見直します。使われていない欄が並んでいると、書く人が迷います。
採用全体の進み具合は採用管理表の作り方で見ます。
そのうえで、承認された稟議と実際の採用を突き合わせます。承認は取ったが募集を始めていない、という案件が残っていることがあります。
止まっている理由を聞くと、求める条件が決まっていない、担当が決まっていない、といったことが出てきます。稟議を通すことより、そのあとを動かすほうが手間がかかります。
よくある質問
- Q. 採用稟議書には何を書きますか。
- 採用の区分・人数・配属と業務・必要な時期・理由・費用の見込み・採らなかった場合どうなるか、の7つです。最後の1つがいちばん効きます。採らない選択肢と比べられて、はじめて判断になります。
- Q. なぜ差し戻されるのですか。
- 採らない場合の影響が書いていない、人件費が月給だけ、時期が「なるべく早く」、今いる人で回せないかの検討が無い、前回の採用の結果が分からない。この5つが多くなります。
- Q. 費用はどう書きますか。
- 採用にかかる費用と人件費を分けます。前者は1回きり、後者は入社後ずっと続きます。人件費は年額で書きます。月給だけだと、社会保険料や賞与が抜けて実際より小さく見えます。
- Q. 1人ずつ出すべきですか。
- 年間の計画としてまとめて承認を取り、実際に募集を始めるときに部署ごとに報告する形が多く使われています。稟議書に「年間計画の枠内か、枠外か」の欄を作ると、読む側が最初に判断できます。
- Q. 承認者が多くて時間がかかります。
- 人事と経理は並行で見る形にすると早く終わります。順番に回す必要があるのは、部署の長と役員だけです。あわせて代理を決めておかないと、不在のたびに数週間遅れます。
- Q. 通りやすくするには何を添えますか。
- 前回の採用にかかった費用と期間、採った人が今も在籍しているか、応募から入社までの人数の推移の3つです。3つ目があると、今回の募集の規模も過去の数字で説明できます。
- Q. 承認後に人数や時期が変わりました。
- どこまでなら報告だけで済み、どこからが再度の稟議かを先に決めておきます。「承認額の1割まで」といった金額の線を引く形が使われています。
- Q. 採用申請書とは違うものですか。
- 分けている会社があります。稟議書は採ることの決裁、申請書は募集の開始を人事へ依頼するものです。規模の小さい会社では1枚にまとめて構いません。
- Q. 電子で回したほうがよいですか。
- 止まっている場所が見えるようになります。採用は時期が効くので、止まる日数がそのまま採れるかどうかに響きます。ただし入力は電子で押印は紙、という形がいちばん止まります。
- Q. 決裁者が見る項目を減らせますか。
- 人数・時期・費用・採らない場合の影響の4つです。細かい経緯は添付にします。本文に長く書くと、読む側が結論にたどり着けません。
- Q. たまった稟議書から何が分かりますか。
- 部署ごとの件数、増員と補充の割合、承認から入社までの日数、差し戻しの理由です。とくに増員と補充の割合が大事で、補充ばかりなら採用より先に離職の理由を見る話になります。
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本記事は一般的な業務の進め方を整理したものです。社内規程、契約条件、法令上の要件がある場合は、それらを優先してご確認ください。記事の内容は2026-10-26時点のものです。