労働条件明示の改正|2024年4月と2026年10月に増えた事項と漏れの防ぎ方
人を雇うときに労働条件を示すルールは、この数年で2回変わりました。2024年4月と、2026年10月です。
どちらも「示す事項が増えた」改正です。今までの労働条件通知書の雛形(=ひな型。書き込む前の型)を使い続けていると、増えた欄がそもそも無い、ということが起こります。
この記事では、まず労働条件明示の基本を押さえます。そのうえで、2回の改正で何が増えたか、誰に何を示せばよいかを整理します。最後に、通知書を渡す前に漏れを数える方法を紹介します。
この記事の内容(10項目)
労働条件明示のルールの基本
労働基準法15条は、労働契約を結ぶときに、労働条件をはっきり示すことを求めています。賃金や労働時間などです。
示す事項は、施行規則5条1項に並んでいます。そのうち、次の事項は書面で示す必要があります(5条3項・4項)。
- 契約の期間と、有期契約を更新する場合の基準
- 就業の場所と従事する業務
- 始業・終業の時刻、残業の有無、休憩、休日、休暇など
- 賃金の決め方・計算と支払の方法・締切と支払の時期(昇給を除く)
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
これ以外の事項(退職手当、賞与、休職など)は、会社がその定めをしている場合に示します。
また、15条2項では、示された条件が事実と違えば、働く人はすぐに契約をやめられます。示した内容と実際がずれると、採用がそのまま無駄になりかねません。
施行規則5条2項は、事実と違う労働条件を示してはいけない、とも定めています。実際より良く見せる書き方は、それだけでルールに反します。
この「示す」タイミングは、契約を結ぶときです。内定の段階で条件を伝えていても、入社前に通知書として改めて渡すのがふつうの流れです。内定承諾から入社までのやり取りの残し方は内定承諾率を上げるにもまとめてあります。
2024年4月の改正1:就業場所と業務の変更の範囲
2024年4月1日に、施行規則5条1項1号の3が改められました。働く場所と仕事の中身について、「変更の範囲」も示すことになりました。
対象はすべての労働者です。正社員だけでなく、パートや有期の人も含みます。
変更の範囲とは、雇い入れたあとに、異動などで変わるかもしれない範囲のことです。たとえば次のように書きます。
雇入れ直後
- 就業場所:本社(東京都)
- 業務:経理事務
変更の範囲
- 就業場所:会社の定める事業所
- 業務:会社の定める業務
転勤や異動が無い契約なら、変更の範囲は「変更なし」と書きます。「書かなくても変わらないのは当然」と思わずに、欄を埋めることが大切です。
この変更の範囲は、募集の段階でも示すことになっています。募集要項の書き方は募集要項の書き方にまとめてあります。
2024年4月の改正2:有期契約の更新上限
同じく2024年4月1日から、有期契約(=期間の決まった契約)を更新するときの基準に、更新上限の有無と内容も入れることになりました(施行規則5条1項1号の2)。
更新上限とは、契約期間を通した合計の上限や、更新の回数の上限のことです。「通算5年まで」「更新は3回まで」のように書きます。
上限が無い場合も、無いことが分かるように書きます。「更新する場合がある」だけでは、更新の基準も上限も読み取れません。
また、更新上限を新しく設けたり、短くしたりするときは、その理由を前もって説明するよう厚生労働省が案内しています。これは告示(=国が出すお知らせの形の決まり)で定められたルールです。上限を変える予定があるときは、厚生労働省の資料で確かめてから進めます。
有期契約は、更新のたびに新しい契約を結ぶことになります。明示も更新のたびに要ります。前回の通知書を使い回すときは、日付と期間を必ず見直します。
2024年4月の改正3:無期転換の申込機会と転換後の条件
有期契約が通算5年をこえると、働く人は、期間の決まりのない契約に切り替えるよう申し込めます。これが労働契約法18条の、いわゆる無期転換です。
2024年4月1日からは、この申込みができるようになる有期契約を結ぶとき、次の2つも示すことになりました(施行規則5条5項・6項)。
- 無期転換の申込みができること
- 転換したあとの労働条件
対象は、その契約期間の中で、申し込む権利が生まれる契約です。権利が生まれたあとも、更新するたびに示します。
転換後の労働条件は、今の条件と同じなら「現在と同じ」と書けます。変わる部分があれば、その部分を具体的に書きます。
通算の期間を数え間違えると、示すべき契約を見落とします。入社日と契約の履歴を名簿で追えるようにしておくと、数えやすくなります。
たとえば1年契約を更新し続けている人なら、5回目の更新で結ぶ6年目の契約の期間中に、通算5年をこえます。この6年目の契約を結ぶときに、申込みの機会と転換後の条件を初めて示します。
契約期間が3年の人なら、2回目の契約(4年目から6年目)の期間中に5年をこえます。そのため、その契約を結ぶときから示します。契約期間の長さで時期が変わるので、人ごとに確かめます。
2026年10月の改正:パート・有期の人への明示が増えた
パート・有期の人には、労働基準法とは別に示す事項があります。パートタイム・有期雇用労働法6条で決まっているものです。
2026年10月1日から、その事項が1つ増えました。「待遇の相違について説明を求めることができる旨」です(同法の施行規則2条1項4号)。
| パート・有期の人に文書で示す事項 | 根拠 |
|---|---|
| 昇給の有無 | 施行規則2条1項1号 |
| 退職手当の有無 | 同2号 |
| 賞与の有無 | 同3号 |
| 待遇の違いについて説明を求めることができる旨(2026年10月から) | 同4号 |
| 雇用管理の改善等に関する相談窓口 | 同5号 |
同じ法律の14条2項では、パート・有期の人から求められたら、正社員などとの待遇の違いと、その理由を説明します。今回の改正は、この権利があることを、雇い入れのときに伝える形にしたものです。
古い雛形にはこの欄がありません。2026年10月以降に雇い入れる人の分から、通知書に1行足しておきます。
あわせて、相談窓口の欄も見ます。実際に相談を受ける部署や担当者の名前が入っているかどうかです。窓口の名前だけで、誰に連絡すればよいか分からない形は避けます。
書面で示す事項と、メールで送ってよい条件
書面で示す事項も、本人が希望すれば、FAXやメールなどで示せます(施行規則5条4項)。メールなどは、本人が印刷して紙にできるものに限られます。
ここで大事なのは「本人が希望した場合」という条件です。会社の都合でメールにするのではなく、本人に希望を聞いて選んでもらいます。
実務では、内定の連絡のときに「通知書は紙とメールのどちらで受け取りますか」と聞きます。その答えを記録しておく形が分かりやすい方法です。
パート・有期の人に示す事項も同じです。本人が希望すれば、FAXやメールなどで示せます(パートタイム・有期雇用労働法の施行規則2条3項)。
内定から入社までの連絡の残し方は内定者フォローにまとめてあります。通知書を送った日と方法も、その記録の中に入れておきます。
労働条件明示で漏れが起きやすい場面
漏れが起きるのは、手続きがいつもと違う場面です。
- 有期契約の更新。前回の通知書を日付だけ変えて渡し、増えた欄が抜ける
- パートから有期、有期から無期への切り替え。示す事項が変わるのに、同じ雛形を使う
- 内定通知書だけで済ませる。給与と入社日だけを書き、ほかの事項を示していない
- 就業規則にゆだねる。「就業規則による」とだけ書き、どの条かが分からない
4つ目は、就業規則で定めている事項を示す方法としてよく使われます。ただ、どの条を見ればよいかまで書いておくと、本人も会社も確かめやすくなります。
入社の前に受け取る書類と、会社から渡す書類は、同じ一覧で管理すると抜けが見えます。書類の回収は入社書類の回収にまとめてあります。
労働条件明示の漏れを、渡す前に数える
雛形は書く欄を示してくれますが、実際に埋めたかまでは教えてくれません。そこで、通知書を渡す前に1人1行で漏れを数えます。
ここで大切なのは、「見ていない欄」と「漏れが無い欄」を分けることです。空欄のまま「漏れ0件」と数えると、確かめていないのに、確かめたことになってしまいます。
パート・有期の人は、労働基準法の事項に加えて、パートタイム・有期雇用労働法の事項も見ます。無期・フルタイムの人はその欄を「対象外」にします。
「対象外」にしてよいのは、条文の上でその人に示す必要がない欄だけです。たとえば更新上限の欄は、無期の人なら対象外です。でも、更新がある有期の人には必ず要ります。迷ったら「記載なし」として扱い、確かめてから直します。
確かめた結果は、渡した日と方法と一緒に残します。あとで「その事項は聞いていない」と言われても、何をいつ示したかを答えられるようにするためです。
この確認は、1人あたり数分で終わります。毎回同じ順番で見ることで、改正で増えた事項も自然に確認の中に入ります。
労働条件明示に違反したとき
労働基準法15条1項に違反すると、30万円以下の罰金とされています(同法120条1号)。
パートタイム・有期雇用労働法6条1項の事項を文書で示さなかったときは、10万円以下の過料(=行政上の罰としてのお金)です(同法31条)。
ただ、罰則よりも実務で大きいのは、示した条件と実際が食い違ったときの影響です。15条2項により、働く人はすぐに契約をやめられます。
入社してすぐに「聞いていた話と違う」と辞められると、採用にかけた時間と費用がそのまま失われます。
早く辞める人の理由として、条件の食い違いは上位に挙がりやすいものです。辞めた人から聞いた理由の残し方は早期離職の原因にまとめてあります。
示す事項を漏れなく書くことは、トラブルを防ぎます。同時に、入社する人が安心して働き始めるための準備でもあります。
よくある質問
- Q. 労働条件明示の改正はいつからですか。
- 労働基準法施行規則の改正が2024年4月1日、パートタイム・有期雇用労働法施行規則の改正が2026年10月1日からです。
- Q. 2024年4月に増えた事項は何ですか。
- 就業場所・業務の変更の範囲(全員)、更新上限の有無と内容(更新がある有期契約)、無期転換の申込機会と転換後の労働条件(申込権が生じる有期契約)です。
- Q. 2026年10月に増えた事項は何ですか。
- パート・有期の人に、待遇の相違について説明を求めることができる旨を示すことです(パートタイム・有期雇用労働法施行規則2条1項4号)。
- Q. 変更の範囲が無いときはどう書きますか。
- 「変更なし」と書きます。欄を空けたままにしません。
- Q. 通知書はメールで送れますか。
- 本人が希望した場合は、出力して書面にできる電子メール等で示せます(労働基準法施行規則5条4項)。
- Q. 有期契約の更新のときも示しますか。
- 示します。更新は新しい契約を結ぶことなので、そのたびに労働条件を示します。更新上限や無期転換の事項も、そのときの状況で見直します。
- Q. 明示しなかったら罰則はありますか。
- 労働基準法15条1項の違反は30万円以下の罰金(同法120条1号)、パートタイム・有期雇用労働法6条1項の違反は10万円以下の過料(同法31条)とされています。
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